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朝食を食べ終えたルイズとジョニィは教室に入った。 石造りの教室にはたくさんの生徒と、様々な使い魔がいた。 生徒たちは二人が教室に入るとゼロがどうとか平民がどうとか言いながら笑い始める。 笑われてるみたいだけど、とジョニィが小声で聞くがルイズは嘲笑を無視するとそのまま席に向かっていった。 「ルイズ。一つ聞きたいんだけど…。なんだい?そのゼロって。朝も呼ばれてたよね?」 「あんたには関係ないわよ」 ルイズは不機嫌な声で答えると席の一つに腰掛けた。ジョニィも黙って隣に座る。 ちょうどそこで扉が開き、中年の女性が入ってきた。 「皆さん。春の使い魔召還は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのが楽しみなのですよ」 そう言いながらジョニィに視線を向ける。 「おやおや、また変わった使い魔を召喚したようですね、ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがジョニィを見てとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ!召喚できないからってそのへんの平民を連れてくるなよ!」 一人の小太りな生徒がゲラゲラと笑いながら立ち上がった。なぜか彼の体には黄金長方形を見ることができない。 「違うわ!きちんと召喚したもの!ミセス・シュヴルーズ!かぜっぴきのマリコルヌに侮辱されました!」 「なんだと!?オレは風上のマリコルヌだ!」 二人が熱くなり始めたところでシュヴルーズは杖を振った。すとん、と二人が席に着き、ついでに笑っていた生徒達の口に粘土が押し付けられる。 まるでスタンド能力だ。ジョニィはあらためて魔法の凄さに感心した。 授業は滞りなく進行した。 内容は系統の説明やクラスなど基礎的なものらしく、ほとんどの生徒達はつまらなさそうに聞いている。 だが元の世界に戻る唯一の手段である魔法を学ばなくてはいけないジョニィは真剣に授業を聞いていた。 魔法初心者の彼にとって授業が基礎から始まるのはありがたかった。 シュヴルーズは『土』系統の魔法を教えるらしく、さっきから何度も『土』系統の魔法の重要さを説明している。 あまりの必死さに生徒達は若干引いているのだが。空気読めよ。 授業が進み、いよいよ実践となったところで唐突にルイズが話しかけてきた。 「ジョニィ。あんた…魔法も使えないのにそんな真剣に聞いてどうするのよ」 「だから言っただろ。僕には帰ってやらなきゃいけないことがある。そのためには魔法でもなんでも学んでやるさ」 「あのねえ…帰る方法なんてないって言ったじゃない。それに…」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」 そんな風に喋っているとシュヴルーズに見咎められてしまった。 「は、はい!すいません…」 「お喋りするほど余裕があるのなら、『錬金』はあなたにやってもらいましょう」 シュヴルーズがそう言って机の上の石ころを指差した瞬間、教室の空気が変わった。 真っ先にキュルケが立ち上がり反対する。 「先生!危険です!」 「なぜです?失敗を恐れていては何もできませんよ」 他の生徒達からも続々と反対の意見が上がるがシュヴルーズはまったく聞く耳を持たない。 一方、ルイズはこれはチャンスだと思った。 どうもジョニィは使い魔としての自覚がないらしい。 自分に対する尊敬とかそういう気持ちが微塵も感じられない。タメ口だし。 そんな彼がさっきから一所懸命魔法を学んでいるのだ。 ここで一つ魔法でいいところを見せればジョニィも見直すことだろう。 (この先100年間は二度と挑んで来たいと思わせないようにご主人様との力の差を見せてあげるわッ!) 「やります」 そう言ってルイズは立ち上がり、颯爽と教室の前へ歩いていく。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 にこっと笑いかけるシュヴルーズに頷くと一呼吸置いてから呪文を唱える。 「承太郎さん!あなたの『スタープラチナ』だ!」 「まずいぜ…!もう少しだけ離れねーと…!」 「『魔法』を使わせるなーーッ!!」 「いいや限界だ!隠れるね!『今だッ』!」 「射程距離5メルトに到達しています!S・H・I・T!」 生徒たちが一斉に慌て始める。 ジョニィはルイズの実力を見るいい機会だと呑気に見ていたが、前の席の生徒が机の下に隠れるのを見てイヤな予感がした。 何かヤバイと思った瞬間、教室が光に包まれたのだ! 「うおおッ!?ジャイロォォーー!?石ころが「爆発」したッ!?」 ジョニィはルイズがなぜ「ゼロ」なのかをやっと理解したのだった。 めちゃくちゃになった教室の片付けが終わったのは昼休みの前だった。 罰としてルイズ一人で片付けを命じられてしまったため時間がかかってしまったのである。 もちろんジョニィも手伝った───というかほとんどジョニィがやったと言ってもいいだろう。 新しい窓ガラスを手配したのもジョニィだし煤だらけの教室にモップをかけたのもジョニィだ。 ルイズは教室の隅でいじけてただけみたいなもんである。 「ルイズ…僕のほうは終わったんだが」 「………」 無言。気まずい。 どうしたものかとジョニィがしばらく悩んでいるとルイズが口を開いた。 「…あたしがなんでゼロかあんたにもわかったでしょ」 そう呟いた。明らかに落ち込んでいた。 そしてなぜかその姿には見覚えがあった。 ───いいところを見せるどころか恥を晒してしまった。 きっとゼロの意味を知ってジョニィもわたしを嘲り笑う。 そして見捨てる。役立たずと。誰からも認められない「ゼロのルイズ」と。 そう思うと悔しくて泣きたくなってきた。 そしてついジョニィにキツく当たってしまう。 「まあ、君の実力はだいたい解ったよ。あの爆発の威力はスゴかった」 「…言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ!笑いたいなら笑いなさい!」 「…?ハッキリ言ってるじゃないか。君の実力もゼロの理由も理解した。別に僕は笑ってないだろ」 ゼロという言葉に反応してルイズはキッとジョニィを睨みつける。 「そう言って…きっと心の中では笑ってる!どんなに努力しても誰からも認めらない! 誰からも見捨てられる!わたしを「ゼロのルイズ」だって!」 ルイズは半分涙声になりながら続けた。 そこでジョニィははっとした。 先ほどルイズに見た誰かの姿は───僕だ。 魔法が使えないせいで誰からも認められない、そう言って一人ぼっちでいるルイズの姿は 歩けないせいで暗い病院で一人で絶望していたあのころの自分を思い出させた。 誰も関心なんか払わない。みんな見捨てる。観にさえも来ない。それが僕の進んでいる『道』 そう思っていた自分にそっくりだった。 ジャイロはそんな僕の限界を打ち破ってくれた。 ならば彼女にも───「何か」が必要なのではないか。 自分の限界を打ち破る、無限へと続く黄金の回転のような「何か」が。 「勉強もした!練習もした!それでも…できなかった!貴族なのに!メイジなのに! 魔法が使えないメイジなんて誰からも認められるわけがないわ!わたしは…わたしは!」 今まで溜め込んできたものを必死に吐き出すルイズの言葉をジョニィは遮った。 「『できるわけがない』」 「え…?」 「他の誰かができても自分はできるわけがない。いくら努力したってできるわけがない。君は今そう思っている。だから限界を感じている」 ジョニィはサンドマンとの戦いを思い出す。自分もそう思っていた。黄金の回転なんか『できるわけがない』と。 「でも本当に出来ないのか?僕の意見を言わせてもらえば君はあんな爆発を起こせるんだ。だったら…君が気付いてないだけで…何か小さなキッカケで…それを見つければできるのかもしれない」 ジャイロが自分の身を犠牲にしてまで教えてくれた黄金長方形を見つけた自分のように。 「そのキッカケが『何か』はわからないけど…。『少しずつ』…少しずつ『生長』すればいいじゃあないか…。今はゼロでも…その『何か』を探して少しずつ『生長』して…そして、そうすれば…最後に勝つのはそうやって『生長』した人間なんだから…」 そう言ってジョニィは教室を出て行った。 自分の言葉が希望になるかはわからないが…それでも『何か』のキッカケになればいいと願って。 一人残されたルイズは呆然と教室の扉を見ていた。 ───今あいつは何を言ったのだろう。彼の言葉には経験に裏付けされた根拠があった。 笑われるものだと思っていた。見捨てられると思っていた。 だがジョニィはそうしなかった。わたしを認めて励ましてくれたのだ。今はゼロでもいいじゃあないかと。 そう思うとルイズは───ただ嬉しかった。 だが素直になれない性格とプライドの高さが災いして次にでてきた言葉は 「ななな、なによ!つ、使い魔のくせして偉そうに!ま、待ちなさい!」 照れ隠しにそう言うと赤い顔を隠してジョニィを追いかけるように教室をでていった。 ───今日の昼ごはんはちょっと豪華にしてあげてもいいかな。 To Be Continued =>
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425 名前:アメジョ風に便乗[sage] 投稿日:2006/12/01(金) 08 52 15 ID 1JdWneN9 ある使い魔が、自分を愛している3人の女の中で 誰を結婚相手にするか長いこと考えていた。 そこで彼は3人に500エキューずつ渡し 彼女らがその金をどう使うか見ることにした。 ルイズは、高価な服と高級な化粧品を買い、最高の美容院に行き、自分を完璧に見せるためにその金を全て使って こう言った。 「私はあなたをとても愛しているの。だから、あなたが町で一番の美人を妻に持っているとみんなに思ってほしいのよ」 シエスタは、夫になるかも知れないその使い魔のために新しいマントやシャツ、馬と馬具を買って、 残らず使いきる と、こう言った。 「私にとってはあなたが一番大切な人なんです。だからお金は全部あなたのために使いました」 アンリエッタは、500エキューを利殖に回し、倍にして男に返した。 「私はあなたをとても愛しています。 お金は、私が浪費をしない、賢い女であることをあなたに分かってもらえるように使いました」 使い魔は考え、一番おっぱいの大きい女を妻にしようとして、3人全員からぼこられた。 428 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/01(金) 13 25 34 ID dgmV8Gae ティファニアとかタバサがいないのは納得できないなあ。 436 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/01(金) 22 11 34 ID WS4zlUVR 428 425改変 ある使い魔が、自分を愛している4人の女の中で 誰を結婚相手にするか長いこと考えていた。 そこで彼は4人に500エキューずつ渡し 彼女らがその金をどう使うか見ることにした。 ルイズは、高価な服と高級な化粧品を買い、最高の美容院に行き、自分を完璧に見せるためにその金を全て使って こう言った。 「私はあなたをとても愛しているの。だから、あなたが町で一番の美人を妻に持っているとみんなに思ってほしいのよ」 シエスタは、夫になるかも知れないその使い魔のために新しいマントやシャツ、馬と馬具を買って、 残らず使いきる と、こう言った。 「私にとってはあなたが一番大切な人なんです。だからお金は全部あなたのために使いました」 アンリエッタは、500エキューを利殖に回し、倍にして男に返した。 「私はあなたをとても愛しています。 お金は、私が浪費をしない、賢い女であることをあなたに分かってもらえるように使いました」 タバサに渡されたお金は使途不明金となった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 使い魔は考え、ティファニアの胸に飛び込もうとして、4人全員からぼこられた。
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目の前の超異常事態に多少放心気味のルイズであったが男がこちらに近付いてくる事に気付き我を取り戻す。 「これは・・・アンタがやった事なの!?」 だがプロシュートは何も答えずルイズにさらに近付く。 「ちょっと・・・ご主人様が聞いてるんだから答えなさいよ!」 「テメー・・・一体何モンだ?オレに何をした?」 「平民が貴族に向かってそんな口の利き方していいと思ってるの!?」 「2秒以内に答えろ……オレに何をした?」 「質問に答えなさい!」 ルイズが怒鳴り散らすがプロシュートは全く動じない。 「ウーノ!(1)」 「ひ、人の話を聞きな――」 「ドゥーエ!(2)」 ルイズは魔法成功率0とはいえメイジ…つまり貴族だ。 平民という存在より圧倒的に上の立場にいると言ってもいい。 だが組織の暗殺チームの一員とし幾つもの死線を潜り抜けてきたプロシュートから見れば「良いとこのボンボン」つまり「マンモーニ」にしか見えない。 そして、その百戦錬磨の暗殺者としてのプロシュートの「スゴ味」が自然とルイズに質問の答えを答えさせていたッ! 「……アンタを召喚したのよ」 「召喚だと…?」 「そうよ、本当ならアンタみたいな平民なんかじゃなく 皆が召喚したようなドラゴンとかを使い魔にするはずだったんだけど何処を間違ったかアンタが召喚されたってわけ」 「その左手のルーンがアンタが私の使い魔になったって印よ」 「左手…さっきの左手の痛みはそれの事か」 だがプロシュートがある違和感に気付く。 (待て…さっきの左手の痛みはいい、それは納得できる…) (だがオレはその左手を何で押さえたッ!?) プロシュートがその答えを得るべく疑問の先へ視線を向ける。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「何ィーーーーーーーーーーッ!!」 「ちょっと…そんなに大声出さなくてもいいじゃない。それに貴族にキス……って何言わせんのよ!」 使い魔の儀式のアレを思い出しルイズが顔を真っ赤にさせるがプロシュートにとっても問題は左手ではなかった。 そう、左手にあるルーンなどどうでもいい。問題は「左手」ではなく「右手」だった。 (バカなッ!?ブチャラティのスティッキィ・フィンガースに切断されたはずの右手がなぜ『付いて』いるッ!?) 「まったく…弟分がお前を引っ張ったその『糸』に救われたぜ」 記憶に映るのはあのフィレンツェ超特急でのブチャラティとの闘い。 「バカなッ!! ブチャラティィイッ!」 (オレの右手はペッシのビーチ・ボーイの糸を殴ったブチャラティの攻撃で確かに『切断』されたはずだッ!) そこまでだ。プロシュートにはそこまでの記憶しかない。いくら記憶を探ってもそれは同じ事だった。 だが地面に激突する瞬間何かの光に包まれたような気がする。 思考を中断し視線をルイズに戻す。 「……テメーの言ってる事はどうやらマジのようだな」 「理解できた?じゃあ早くこの老化を解いてちょうだい」 「断る」 「アンタ…平民、それも使い魔が貴族に逆らえると思ってるの?」 「平民か貴族なんてのはオレたちにとってはどうでもいい、何より使い魔ってのが気に入らねぇ」 「貴族を敵に回してここで生きていけると思ってるの…!?」 「それに使い魔って言っても奴隷とかそういうのじゃなくて主人を守り忠誠を誓うある意味平民にとっては名誉なものよ?」 ルイズが使い魔の事について説明を始める。 が、当のプロシュートは殆ど話を聞いていない。 プロシュートが再び思考を巡らす。だがそれは使い魔になるかならないかという単純なものではなかった。 (どうするか…) 思考の末プロシュートは三つの選択肢を作り出す。 (一つはこいつを殺しここから離脱する事だが…これは駄目だな。 もしこいつの言うとおりここが全く違う世界なら地理が分からねぇしどういうわけか言葉は分かるようだが文字が分からないってのが致命的だ) (二つはこいつを人質にしここから離脱する…これも却下だ。 チビとは言え人一人を無理矢理担いで移動するのは限界があるし何より目立ちすぎる。) (三つは使い魔とやらになったふりをし情報を集める…今の状況下ではこれが最善か…? 殺す事は何時でもできるしやはり何より今は情報が欲しい。それにこいつ…メイジとか言ったがスタンド使いではないようだな。) (スデにグレイトフル・デッドで殴りかかってみたが動揺一つせず汗すらもかきやしねぇ) 自身の状況を正確に把握し最善の策を見出す。それが暗殺者としてプロシュートが生き抜く為に身に付けた事だ。これは当然他のヤツらも持っている。(ペッシ以外だがな) プロシュートのかなり物騒とも言える思考を知らずにルイズが「早くルイズ様の使い魔になるって言いなさい」という視線を送ってくる。 「……大体の状況は理解した」 「そう、それじゃあ早く皆を元に戻してちょうだい!」 「使い魔とやらになってはやる、だが…オレを他の連中と同じと思わねぇ事だなッ!」 ズキュン! グレイトフル・デッドの能力が解除され倒れていた生徒達の老化が解除されしばらくしてコルベールが起き上がる。 「うう……一体何があったのだね?ミス・ヴァリエール。」 「もう大丈夫ですミスタ・コルベール」 「そうか……他の生徒達も大丈夫なようだね、各自教室に戻りなさい。」 生徒達が多少ふらつきながら戻っていく。だがプロシュートは空を見据えたまま動かない。 「ほら、早く戻るわよ!」 (ペッシ…メローネ…ギアッチョ…リゾット…すまねぇな、ボスを倒すと誓ったはずなのにしばらくそっちに戻れそうにねぇ) プロシュートにとって昨日まで一緒に居た仲間が急に遠くに感じられたが、今は状況を少しでも良くする為に前に突き進むしかなかった。 予断だがコルベールのU字ハゲが進行した事は言うまでもない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1391.html
「きゅい!そうなの、あの使い魔が死にそうなギーシュ様を治したのね!」 「そう…」 育郎とギーシュの決闘があったその日、魔法学園の上空でタバサが自分の使い魔の竜、 周りには風竜と説明してあるが、実は伝説とまで言われる、人の言葉や先住魔法まで操る風韻竜と呼ばれる種族のシルフィードに、決闘の顛末を聞いていた。 キュルケからほとんど同じ内容の話を聞いていたが、それでも彼女にとって、 最も重要な事が確認できたので無駄にはならなかった。 だがまだまだ確認すべきことはある。簡単に喜ぶわけにはいかない。 「先住魔法?」 「うーん、ちがうと思うの。精霊の力は感じられなかったの」 先住魔法とも違う力…彼女の瞳に小さな希望が宿る。それは彼女のもっとも大切な人間、先住魔法の薬で、心を狂わされてしまった母を治す可能性。 だが簡単に喜ぶわけにはいかない。相手が自分の頼みを簡単に了承するとは限らない。 そもそもその相手は… 「あの使い魔…なにかわかる?」 相手は知識を求める事に余念が無い、自分ですら知らない亜人なのだ。 たぶん亜人なのだ。 知らないけど亜人に違いない。 とにかく、もしかしたら自分の使い魔なら、ひょっとしてあれが何か、知っているかも知れないと期待して聞いてみる。 「知らない、見たことも聞いた事もないのね!」 使い魔の答えに心を重くするタバサ。 「きゅいきゅい!お姉さま、わたし思うの!あれはきっと悪魔なのね!」 その言葉にタバサの体が一瞬ビクリと震えるが、シルフィードは気付かずに続ける。 「ギーシュ様を治したのもきっと油断させる為なの! ミス・ヴァリエールの使い魔をやってるのもたぶんそうなのね! そしてある日、キレイな女の人の魂を食べちゃうの!恐い! そうだ!カワイイからきっとお姉さまも狙われるわ! お姉さまが食べられちゃう!きゅいきゅい!」 ぺしぺしぺし 「きゅい!イタイ!どうして叩くのお姉さま!?」 そんな恐ろしいことを言うからだ。 次の日、彼女は授業を休んで密かに図書館に向かった。 先日の夕食時、あの使い魔は東方の亜人であると、学院長の秘書が言っていたという話を聞いた彼女は、確認のため東方に関する書物を調べに来たのだ。 一応病気という事になっている彼女は、ありったけの書物を借りていく。 中には教師にしか閲覧が許されない、フェニアのライブラリーに収められた書物まで含まれていた。 もちろん、無断である。 「ない…」 自分部屋の中で、大量の本に囲まれたタバサが一人つぶやく。2日徹夜してまで書物を読みふけったが、ルイズの使い魔に該当するような亜人の記述は無かったのだ。 「………」 チラリと部屋の片隅に追いやった2冊の本を見る。 それは念のため、ありえないと思うが、可能性はゼロに限りなく近いが、それでも一応図書館から持ってきた本であった。 シーゲル・ミズキ著『ヨーカイ大図鑑』 カズ・マ・カネコゥ著『万魔殿』 どちらも悪魔や妖精等、伝説とされる存在について詳しく図説された書物である。 意を決して、2冊の本を手に取る。 無論、悪魔や幽霊なんて存在するわけは無いのだが、存在するはずが無いのだが、頼むから存在して欲しく無いのだが、 それでも中には元となる話、生き物等がある可能性があり、 自分が求めるあの使い魔についての、何らかの情報が存在しているかもしれない、そう考えて図書館から持ってきたのであった。 決してあの使い魔が悪魔だなんて思ってないのである。 思ってないんだってば。 例え悪魔であろうとも、自分の母親を救う為ならば、魂の一つや二つドーンと捧げるぐらいの覚悟はある。 まあ、あの使い魔が悪魔なんて、そんな非常識な事があるわけないので、そんな覚悟をする必要は無いのだが。 オバケなんていないのである、オバケなんてウソなのである、寝ぼけた人が見間違えただけなのである。 だけどちょっと、だけどちょっと… 「…………!」 フルフルと首を振って、危険な方向に向かった自分の思考を打ち消し、気を取り直して、 彼女は本を開いた。 ベシッ! テッテッテッテッ フルフルフルフル 「あった…!」 何度か恐ろしい項を見る度に、本をその場に叩きつけ、部屋の隅で震えることを 繰り返した後、タバサはあの使い魔に当てはまる記述を見かけた。 『青白い者』 異教の終末の予言にはこう記されている。 「見よ、青白い者が出てきた。その者の名は『死』と言い、それに黄泉が従っていた」 その力は凄まじく、雷を呼び、手で触れるだけで人々を消滅させたと言われている。 また呼び出した者の願いを叶えるとも伝えられ、その際望むものと同じ価値の宝や魂を要求するという。 なお、彼が願いをかなえるのは、その人間の生涯一度だけである。 「…そんな!?」 思わず声をあげてしまう。彼女の脳裏には、先日食堂でハシバミ草とローストチキンを交換した光景が浮かんでいた。 なんという事だろう…自分の軽はずみな行動で母を救う望みが… なんのかんのいって、結局育郎を悪魔と信じているタバサであった。 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 『 知 は 生 命 な り ! 』 タバサの脳内で、そんな愉快な光景が広がっていてもおかしくない様子で、彼女が一冊の本を高々と掲げ上げる。 本にはこう書かれていた。 『実践!ブリミル式悪魔祓い』 見れば周りにも様々なおまじないや、民間信仰の本が積みあげられている。 この時点で徹夜4日目であった。 To be continued…… 18< 戻る
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几帳面な性格をしているために、先に聞いてきた向こうの質問に答えた形兆だったが、 こっちが答えたのだからあっちの方も答えるだろう。という彼の期待はあっさり破られた。 「ニジムラ ケイチョウ? 変な名前」 そう言ってはげ頭の中年の男の方に振り向き、何か話し始めた。 召喚のやり直しやらこれは神聖な儀式であるのでそれは出来ないなど、よく分からない事を話している。 まだ少し混乱している頭で自分はどうなっているのか、お前も自分の名前くらい言え、 などと言ってみたが無視された。 それにさっきから周りの奴らの笑い声が聞こえてくる。 どうなっているのか分からなくなり頭を抱える形兆だったが、そこであることに気づいた。 自分は生きている。 確かに自分はあの時死んだはずだ。それは確かなことだった。 だが自分は今生きている。これも確かなことである。 自分が生きているのか分からない、こんな状況は初めてだ。 「バッド・カンパニー!」 警戒してスタンドを出そうとする、だが何も起こらない。 自慢の軍隊が出て来ないのだ。アパッチや戦車はおろか、歩兵の一人も出て来ない。 やはり自分は死んだのだろうか?そうするとここは地獄か?だが地獄にしては綺麗な所だ。 不審に思いさっきよりも目を凝らして周りを見渡し事態を把握しようとする。が、 「あの平民なにを叫んだんだ?」 「イカレてるんじゃあないか?」 「ゼロのルイズの使い魔だしな」 不審に思われているのは自分だった。 周りを観察しながらこれがどういうことなのか考えているうちに 自分名前を聞いてきた桃色の髪の女がこっちにやってきた。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 そういって手に持っていた杖を振る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「それがお前の名前か?」 「五つの力を司るペンタゴン」 「ペンタゴン?アメリカ国防総省のことか?」 「この者に祝福を与え」 「祝福?ありがとう、と言えばいいのか?」 「我の使い魔となせ」 「使い魔?魔法使いみたいなことを言うな?」 几帳面にルイズの言葉に反応を示す形兆。偶然だが半分は正解を言い当てている。 次は何を言われるんだ?そもそも何を言っているんだ? 少々混乱しながらも形兆がそんなことを考えていた次の瞬間! キスをされた。 完全に不意打ちをくらった形兆は驚き、ルイズから顔を離しさらに距離をとって身構える。 「何のつもりだ?ルイズ」 当然の疑問。だが、 「呼び捨てにするんじゃないわよ!ご主人様でしょ!」 (どうしてコイツはおれの話を全く聞かないんだ?そもそもご主人様って何だ?) 几帳面な分突発的な出来事に強くない形兆は混乱の度合いを強くする。 そして形兆が次のことを考えようとして、急にきた体の熱さに邪魔された。 「なにィ~~~スタンド攻撃かッ!?」 「騒がないで、『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「『使い魔のルーン』だと!?」 それで自分に何をしたのかを聞き出そうとした時、熱は無くなった。 (一体何なんだ?分からない事が多すぎるぞッ!?) 混乱だけが強くなっていく形兆に追い討ちを掛けたのは責任者らしき中年の男だった。 「フーム……珍しいルーンだな。 よしじゃあ今日は解散!みんな良くやった!」 そういってその男は『飛び』去っていく。周りにいた者もみな飛んで城のような建物の方へ行く。 それをみて形兆は 「一体どういうことだ?」 としか言えなかった。 もう何がなんだか分からなかったが、 あの中年の男の態度や使い魔という単語から自分に危害を加えることは無いだろうと判断し、 何故か未だに残っている自分の唇を奪った女に話しかけた。 説明しろ。と To Be Continued ↓↓
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ゼロの兄貴-1 ゼロの兄貴-2 ゼロの兄貴-3 ゼロの兄貴-4 ゼロの兄貴-5 ゼロの兄貴-6 ゼロの兄貴-7 ゼロの兄貴-8 ゼロの兄貴-9 ゼロの兄貴-10 ゼロの兄貴-11 ゼロの兄貴-12 ゼロの兄貴-13 ゼロの兄貴-14 ゼロの兄貴-15 ゼロの兄貴-16 ゼロの兄貴-17 ゼロの兄貴-18 ゼロの兄貴-19 ゼロの兄貴-20 ゼロの兄貴-21 ゼロの兄貴-22 ゼロの兄貴-23 ゼロの兄貴-24 ゼロの兄貴-25 ゼロの兄貴-26 ゼロの兄貴-27 ゼロの兄貴-28 ゼロの兄貴-29 ゼロの兄貴-30 ゼロの兄貴-31 ゼロの兄貴-32 ゼロの兄貴-33 ゼロの兄貴-34 ゼロの兄貴-35 ゼロの兄貴-36 ゼロの兄貴-37 ゼロの兄貴-38 ゼロの兄貴-39 ゼロの兄貴-40 ゼロの兄貴-41 前編 ゼロの兄貴-41 後編 ゼロの兄貴-42 ゼロの兄貴-43 ゼロの兄貴-44 ゼロの兄貴-45 ゼロの兄貴-46 ゼロの兄貴-47 前編 ゼロの兄貴-47 後編 ゼロの兄貴-48 ゼロの兄貴-49 ゼロの兄貴-50 ゼロの兄貴-51 前編 ゼロの兄貴-51 後編 ゼロの兄貴-52 ゼロの兄貴-53 ゼロの兄貴-54
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学院長室への階段。 ミスタ・コルベールは、左足を若干引きずりながら一歩一歩上っていた。 時々左足に痛みが走る度、彼は三日前にその傷をつけた、ミス・ヴァリエールの使い魔を思い出す。 初めはただの死体だと思っていたソレが動き出し、あまつさえ自分に牙をむいた様を。 それをいなせなかった事実は、単純にコルベールに驚きを与えていた。 (私も、ヤワになったというわけですかな……) が、同時に彼は、その使い魔に対して非常に強い興味を抱いていた。 首だけでも活動し、メイジにケガすら負わせる異形に。 コルベールは好奇心の強い人間だった。 襲われたことに怒りを覚える前に、興味を感じてしまっている自分を皮肉りながら、コルベールは学院長室の扉を開けた。 「失礼いたします、学院長」 コルベールが学院長と呼ぶ人物、オールド・オスマンは、窓際に立ち、腕を後ろに組んで、重々しく彼を迎え入れた。 側には彼の秘書であるミス・ロングビルが黙々と書類仕事をこなしていた。 コルベールは無言で彼女に挨拶した。 彼女もまた無言でそれに応じた。 「ケガは治ったようじゃな、ミスタ・コルベール」 「……まだ少し痛みは残りますが、概ねは」 「君の治療に使った秘薬の代金は、バカにならんかったぞ…?」 「…………………」 「一応は、勤務中の事故じゃからな。学院の経費で決算じゃ。 しかしのう、額が額じゃ。王室の連中からまたケチを付けられるわ」 「………申し訳ありません」 コルベールは居心地悪そうに頭を下げた。 オールド・オスマンはフンッと鼻息を荒げた。 「謝る時間があれば、たるんだ貴族共から学費を徴収する上手い方法を考えるんじゃな。 誰だって我が身は可愛い……そうじゃろう?」 オールド・オスマンの鋭い視線が、コルベールを射抜いた。 コルベールは再び頭を下げた。 冷や汗が彼の頬をつうっと垂れた。 「で、一体何のようじゃ? ケガの回復の報告だけをしに来たのではあるまい」 そんなものは書類で済む話じゃからのう、というオールド・オスマンに、コルベールは重々しく言った。 「…ヴェストリの広場で、決闘を始めようとしている生徒がいるようです。 大騒ぎになっています。」 オールド・オスマンは苦々しげにため息をついた。 「全く、隙を持て余した貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。 で、誰が騒いでおる?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモン家のこせがれか。 オヤジ同様、大方女の取り合いじゃろう。 相手は誰じゃ?」 コルベールは一瞬躊躇したが、オールド・オスマンの促しに耐えきれずに話した。 「……どうやら、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」 オールド・オスマンの片眉がピクと持ち上がった。 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが…」 オスマンの目が、再び鷹のように光った。 コルベールはうっとうろたえた。 「アホか。小競り合いの延長のような決闘如きに、秘宝を使ってどうする。 しかし………ふむ、そうじゃな…ウチの大切な教員にケガをさせたそのミス・ヴァリエールの使い魔か…。興味深いのう」 いちいち話をほじくり返すオスマンに対して、コルベールは針のむしろに居るような心地だった。 そして、オスマンはその杖を振った。 壁に掛かった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。 ――――――――――――――――――――――― ヴェストリ広場は魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある中庭である。 西側にあるその広場は、昼間は日があまり差さない。 決闘にはうってつけの場所だった。 そのヴェストリ広場は、ギーシュの取り巻きが広めた噂を聞きつけた生徒で、溢れかえっていた。その中には、キュルケとタバサの姿も伺えた。 噂を聞きつけて駆けつけてきたのだろう。 他の観衆と違って、二人はいつでも魔法を使えるように緊張していた。 が、キュルケは時々チラチラとルイズ顔色をうかがっていた。 何かに怯えているようだった。 その観衆の輪の中、DIOは静かに皆の視線を受けていた。 後ろには、ルイズとシエスタがいた。 ルイズは腕を組んで、己の使い魔を見守……いや、睨みつけている。 「諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げた。 歓声が巻きおこる。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はあの『ゼロ』の使い魔の平民だ!」 ルイズの頬が一瞬ピクリと痙攣した。 が、すぐに何事もなかったように無表情に戻る。 ギーシュは一通り歓声に応えたあと、もったいぶった仕草でDIOの方を向いた。 「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやるよ、平民」 ギーシュは薔薇をいじくりながら歌うように言った。 DIOは無視した。 「では、始めようか!」 そう言うと同時に、ギーシュは薔薇を振るった。 花びらが一枚宙に舞い、甲冑を着た女戦士の形をした、人形になった。 硬い金属製のようだ。 甲冑が陽光を照り返し、きらめいた。 DIOはその様子を見やると、興味深そうにほぅといった。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。 文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。従って青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手するよ」 ギーシュが大仰に礼をした次の瞬間、ワルキューレがDIOに向かって突進した。 一瞬で間合いに入ったワルキューレが、その右の拳をDIOに振りかざした。 が、瞬間、あたりに銅鑼を思い切り叩いたような、 "ゴワァァアン"という音が響いた。 ワルキューレが地面に水平に吹っ飛び、ギーシュの前に転がった。 みると、ワルキューレの腹部は、ハンマーで殴られたようにボッコリとへこんでいた。 ギーシュは、うっと呻いた。 DIOを睨む。 DIOは腕を組んだまま、静かに佇んでいる。 しかし、ギーシュの目は、DIOの前に、うすぼんやりとした何かが浮いているのが見えた。 DIOはチッと舌打ちして、ソレを見ている。 「平民…! 今何をした!? 何だソレは!?」 DIOは再びほぅと言った。 「見えるのか、小僧。我が『ザ・ワールド』が」 ルイズは、先ほどの光景を間近で見ていた。 ギーシュのワルキューレが、DIOにその金属の拳を振りかざした瞬間、DIOの体から出てきたソレが、ワルキューレを殴り飛ばしたのだ。 ソレは、DIOの周囲をフワフワと漂っていた。 人間の上半身のようにもみえるソレは、ヒドく像がぼやけていた。 ムラサキともピンクともつかない色を放っていて、まるで幽霊のようなソレには、左腕がなかった。 (あれが、DIOの言っていた、『すたんど』…ってやつかしら?) ルイズはそう推測した。 恐らくはあれが、DIOの能力なのだろう。 青銅をへこませた所をみると、かなり腕力がありそうだ。 『ざわーるど』……変な名前だ、あいつの靴のデザインには負けるけど、とルイズは思った。 だけど、あれだけなのだろうか……? あれでは、殴る拳が一つ増えただけに等しい。 それだけで倒せるほど、ギーシュは……メイジは甘くない。 何か、別の力でもあるのだろうか、あの幽霊には。 何にしても、これからが見ものだ、とこぼしつつルイズはギーシュの方を見た。 一方のギーシュは、苦々しげにDIOに吐き捨てた。 「…ふん!何だか知らないが、やってくれたじゃないか。 『ゼロ』の使い魔の癖に…!」 ルイズの頬が、今度はピクピクと二度痙攣したが、ルイズは表面上は穏やかだった。 ―――表面上は。 そんなルイズの内心を知らぬまま、ギーシュは再び薔薇を振った。 六枚の花びらが舞い、さっきと同じように六体のワルキューレが現れた。 先ほどとは違い、剣や槍や斧など、様々な武器を持っている。 それと同じく、ギーシュの足元に転がるワルキューレの腹の窪みがすうっと元に戻った。 「平民のクセに、生意気におかしな力を使うようだな。 …いいだろう、ならば、この『青銅』のギーシュ、全力でお相手いたそう!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、一体をギーシュの側に残して、都合六体のワルキューレが、DIOに向かって再び突進した。 それを迎えて、DIOは初めて、組んでいた腕を解いた。 to be continued…… 23へ
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どうやら貴族というものは自分で服を着るという概念はないようだ。 ルイズを着替えさせながらそう思う。目が覚めるとまず私に驚く。私が召還された使い魔だと思い出すと突然、 「服」 と言い出す。まったく貴族という奴は皆こうなのか? ルイズとともに部屋を出る。すると別の部屋からも誰か出てくる。 赤い髪で褐色の肌を持つ女だった。ルイズより背が高く顔の彫りは深い。バストは大きくブラウスのボタンを外し強調されている。 彼女はこちら見ると薄く笑う。 「おはよう。ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 ルイズは嫌そうに挨拶を返す。彼女の名前はキュルケというらしい。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケはこちらを指差すと馬鹿にした風に言う。 「そうよ」 ルイズが意地になって言う。 「あっはっは!ほんとに人間なのね!すごいじゃない!」 やれやれ、貴族というのはこんなのばかりなのか。 まぁ、生活の苦労を知らなければこうなるのは当たり前かもしれないな。 生まれたときから人の上に立ち、甘やかされて育ったのだろう。 ルイズとキュルケが話しているとキュルケが出てきた部屋から赤く大きなトカゲのような生物が現れた。 そこにいるだけで周辺の温度が上がる。 何だこれは? それが顔に出たのだろう。キュルケが笑いながら説明する。どうやらこの生物は火トカゲというらしい。これが彼女の使い魔でフレイムというらしい。 火竜山脈とかいう場所の火トカゲでそこの火トカゲはブランドものらしい。きっと見た目と強さに定評があるのだろう。 「それであなた、お名前は?」 キュルケが聞いてくる。 「吉良吉影だ」 「キラヨシカゲ?変な名前」 そりゃこっちの人間からしたら変だろうな。 しかし目の前で言わなくてもいいものを…… 「じゃあ、お先に失礼」 そう言うとキュルケとフレイムは去っていった。ルイズは悔しいのだろう、文句を言っている。 そういやさっき彼女はルイズを『ゼロのルイズ』と言っていたな。召還されたときも誰かがそう言っていた気がする。 ルイズは私を召還したときに随分と馬鹿にされていたようだ。さっきもそうだ。そこには『ゼロのルイズ』という単語が出てくる。ルイズの あだ名なのだろう。 そういえばルイズは魔法を使ってないな。それが関係しているのだろうな。 ルイズが落ち着いたところで食堂に行く。食堂には大きく長いテーブルが三つ並んでおりテーブルには豪華な飾り付けがしてある。 いかにも「私たちは金持ちだ」見たいな感じで呆れるな。料理も朝から豪勢だ。こいつら胸焼けしないのか? 「椅子を引いてちょうだい」 ルイズが言う。椅子を引いてやる。 するとルイズが何か渡してくる。スープだ。そして皿の端にパンを二切れ置く。 「あんたの朝ごはんよ。私の特別な計らいで床で食べていいわ」 そういえば人間は食事を取らないといけないんだったな。理不尽だが我慢する。 少しの辛抱だ。こんなな小娘の言うことを利くのは情報を得るためだ。自分に言い聞かせる。 なにやら祈りが唱和される。こいつらにとってこれがささやかな糧か。早死にするぞ。 5へ
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渡り廊下のほど近くに倒れた男へ向かい コルベールが寄ってくる そしておもむろに杖を振り上げた あわてるのはキュルケだった 「ちょっと、何をなさるおつもりッ!?」 「決まっているでしょう、殺すのですよ 彼…『この存在』は危険すぎる」 「バカなことをッ!! これなら充分、生け捕りにできるじゃありませんのッ」 生徒にあるまじき態度でくってかかるキュルケ 一応、敬語を使ってはいるが ガンバりを無駄にされて笑っている趣味はないッ だがコルベールも引き下がらなかった 「タダの使い魔であればそれも良いでしょう しかし、これはあまりに得体が知れないッ おまけに出てくるなり危害を加えたならば 皆を監督する者として、こうする以外にありませんッ」 スジは通っていた 出てくるなりいきなり殴りかかってくる使い魔など前代未聞だった 危険な生物を召喚してそのまま放っておき続ければ あるいはそんなに不思議なことでもないかもしれないが それでもキュルケは食い下がる 「ですが、あれは平民ですわ、ミスタ・コルベール」 「それこそバカなことではないのかな? 本気で言っているのかね?」 「………」 黙るしかなかった あんな平民がどこにいる? だが、それでも 今、目の前で折れた足をかばっている男は理性ある「人間」だ 最後の方、攻撃を明らかにためらったことに気づいていたキュルケである そこに火球を浴びせかけて反撃せざるをえないように追い込んだのだ そうしなければ、男は戦いをやめ、どこかに逃げるなりしていただろう 最初に暴れたワケは不明なままだが とにかくキュルケは確信していた それを言おうと口を開くがコルベールに先手を打たれた 「それに、だとしたらますます存在を許すわけにはいかない 貴族を殴り、使い魔を山ほど傷つけた そんな平民が生きていられると思うのかね?」 もっともだ もっともすぎる これほどハデにことが起これば隠蔽など不可能 人間と認めたら認めたで、かばいようがないッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「つまり、『これ』には死刑判決以外ありえない」 コルベールは厳粛だった そして振り向く この真なる当事者に 「良いですね、ミス・ヴァリエール」 ビクッ ぐずりながら見守っていたルイズは肩を震わせる 何を言われたか そのくらいは理解していた 「気に病むことはありませんよ これは事故なのです あなたには何の責任もない これを始末した後で、また儀式をやり直しましょう そのくらいの時間はとってあげられます」 「……」 (…そうだわ これは事故なのよ 私には何も責任ない こんなところに出てきた平民がおかしいのよ) くじけた心はまたたく間にルイズに『弱い考え』を植え付けた (私は「ゼロ」じゃない だから、あんなの私が呼ぶわけがない これは何かの間違いなのよ そうに決まってるのよ…) ルイズは、コルベールに向かってうなずいてしまった 死刑の執行許可書にサインしてしまった (…見ッ下げ果てた奴ッ アンタ、やっぱり「ゼロ」だわ、ルイズ) キュルケが苦虫を噛み潰す横で コルベールが呪文の詠唱を始める 足を折られた元・鳥の巣は、なんとなく置かれた状況を理解した ナニゴトか唱えた後で炎が飛んできたり地面が固まったりしてきたのだ どうやらこのハゲは自分を殺す気らしいぞ そう思ったらしい 最後の抵抗を試みたようだ 「DORA!!」 ボコァ 見えない手が掘り返した土くれがコルベールに投てきされる ボグォム 「―― ぐはッ!?」 至近距離からのレーザービーム送球ッ!! 単なる土くれだったがスピードがシャレにならない 下腹部に直撃されたコルベールは呪文を中断して咳き込むことになる そして彼は男が闘志をあらわに睨み付けていることに気づくのだ 「…恐れることはない、私にも情けはあるさ 苦しませはしないよ…『炎蛇』の二つ名にかけてなッ」 『火×1』 正面からが駄目ならカラメ手だった 男の前後左右から迫り来る、文字通り炎の蛇ッ ススス ドヒャ! ドヒャ! のけぞって逃れようとする男の顔へ容赦なく飛びかかり 口をふさいで巻き付いたッ ゴゴゴォ チリ…チリ… 「Go…aa!!」 振り払おうと身体を激しく振るう男 見えない手もさかんに振り回されているようだ だが蛇は炎の塊でしかない つかめるものが何もない 白目をむくッ!! 炎を呼吸して肺を焦がすか 顔を焼かれたまま長い窒息の苦しみの果てに死ぬか 非情な二者択一をコルベールは迫ろうというわけだ 「早く受け入れたまえ…そっちの方が、楽だぞッ」 「Gaooa…DORAa!!」 バコォ ようやく「自分の顔を殴って脱出」という方法に思い至った男だったが その力は予想を越えて貧弱だった 炎の蛇が振り切れないッ 「なるほど、君自身の生命力に依存する力かね… 死にそうになればなるほど弱っていくわけだ 正直、興味深いよ だがね、生徒達の安全には変えられないんだ わかってくれるね」 這って渡り廊下までついた男だったが そうしたところでどうにもならない どうにかなりそうなモノも見当たらない 「王手の詰み」(チェックメイト)にハマッたのだ 「では、死…」 ゴッバォオーz_ ン その爆発は、トドメに刺された一撃ではなかった コルベールに使える魔法では、無いッ!! なにっ!? たったひとつの心当たりを見てみれば、 やはり、だがなぜ…ゼロのルイズが魔法の杖を掲げ、振り下ろしていた 「…これは一体、何のマネだね ミス・ヴァリエール」 今ので吹き飛ばされた男は全身、服がミジメなことになりはしたが まとわりついた炎の蛇もまた、どこかに消え失せてしまっていた 肩で息をして返事をしないルイズに、コルベールは再び問う 「…何のつもりだねッ!!」 ゼェ…ハァ… ルイズは少し呼吸を整え、答えた ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「儀式は途中です、まだ終わっていません」 「どういう意味だね、言っていることが少し、わからないのだが…」 「契約を続けるんですッ!! そこの、私の使い魔とッ」 ルイズは実家の家族達を思い出していた キビシイ父、キビシイ母、それにキッツイ長女ッ 魔法がマトモに使えていないことでだけでも 自分の頭をカチ割りたくなるような追及を受けまくっているのに そこへ今回の話がいったらどうなる? 予想どころではないし考えたくもない だが (ちい姉さま…) 次女カトレアはルイズに優しいのだ 怒られてばかりのルイズをなぐさめ励ましてくれたのはいつも「ちい姉(ねえ)」だった 今この瞬間だって絶対にそうだろう 父と母と長女の態度がつらくても、ちい姉さまがいるから頑張れる もちろん、今回のこれを聞かせることになると思うと泣けてくる しかしッ (呼び出した使い魔を見捨てて… そんな私に、ちい姉さまは笑ってくれるの…?) 答えはNOだッ ルイズの中のちい姉さまは許さないッ (ちい姉さまに会いに行くのに、イチイチおびえなくちゃいけないようになるなんて… 顔を見るたび、オドオドしなきゃいけないようになるなんて… 私はイヤよ、絶対にッ!!) だが考えてもみる あの使い魔はイキナリ暴れて大変なことをしでかした 今は死刑宣告をくらって執行されようとしている そんなものと一生寄り添って、どうするつもりなのだ? 新しく使い魔を呼んだ方が… (使いこなしてみせるわよ) そんな弱音は握りつぶしてみせるッ (ちい姉さまがたくさんの動物を手なずけるようにッ そうすれば…私は「ゼロ」じゃ、ないッ!!) ルイズは男の前に立ち、両腕を広げた 今まさに攻撃を再開しようとしているコルベールから、男を守るようにッ 「…セ・シ・ボン(結構だわね)、ルイズ」 一時は自分が彼の身柄を買い取ってしまおうかとまで考えていたキュルケだったが 進み出たルイズの姿にヒュウッと軽く口笛を鳴らした 「言いたいことはわかりましたよ、ミス・ヴァリエール」 杖は下ろさないまま、コルベールは言う 「あなたは全部、責任が取れるというのですね? 使い魔や衛兵の治療代に、貴族子弟を危険にさらした賠償金、全てをッ」 「……」 「使い魔が噛みついた責めは、全てその主にあるッ わかっているというのですねッ?」 「…わかっていますッ!!」 「安請け負いをす…」 コルベールはその先を続けることができなかった 渡り廊下が突然、崩れ始めた 原因は明白ッ ルイズの起こした爆発以外にあるものかッ グラァ ドドガァ 男はもとより 前に立ったルイズももろともに下敷きだッ!! ガラ ドォォ ズズン 砂煙が収まった後が見えてくる 男は無事だった あの正体不明の見えない力で防ぎきったものだろう だが、もう一人は かばったために一緒に巻き込まれたルイズはッ 「ル、ルイッ…」 キュルケをはじめとした、クラスメートの何人かが顔を真っ青にした ルイズは横倒しに、瓦礫の下敷きになっていた 肩から上は外に出ているが その下から赤い水溜まりが見え隠れ…大きくなっていた 「ガレキを全部、上に…魔法、使いすぎてるッ 魔力足りないのよッ…… タバサァァーッ 何ぼさっと見てんのォォーッ!!」 「……」 タバサは片手で杖を振り上げ『風×2』を器用に行使する 突風で瓦礫のみを取り除く、おそるべき精密性であった しかし、そうやって重みから解放されたはずのルイズは 「………」 どこからどう見ても、手遅れだった 血溜まりの直径が1メイル近かった まもなく死ぬだろう 誰もがそう思った だから そんな彼女に膝を引きずって近寄っていく男が何をする気なのか 誰も大して気にしていなかった …そして ズギュウウゥゥゥン 「え…」 「あ、あれ?」 逆再生のビデオそのものという、 この世界の誰もが見たことのない光景に、 全員、息を呑む…どころか反応できなかった 崩れ落ちた渡り廊下が全て元通りになってゆき… 横たわるルイズの下には、血溜まりなど、どこにも無かった 「…何、が?」 コルベールが二回、目をこすったとき、 男…元・鳥の巣はその場にグッタリ倒れ伏した 結局のところ、残されたのは謎だけだった 男が再び目覚める、そのときまでは… 6へ
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「ハァ……ハァ……ハァ……」 ルイズは馬に乗って森を駆け抜ける。 「もう…どこいったのよ…」 彼女は巨体の使い魔を探す。 「そもそも、あいつモット伯の屋敷の場所知らないでしょうに……」 口に出してから、気づく。 「そうよ!あいつはモット伯の屋敷の場所を知らないのよ!飛び出していったはいいいけど、方角も距離も知らないはずだわ!なーにが 『我々の知力』よ!穴だらけのザルじゃない!一応あてがないから念のために屋敷に行って、そこに居なかったら帰るしかないわね」 そして、森が開け、モット伯の屋敷が見えてくる。 屋敷を囲む塀の向かいの茂みに一人の大男が潜んでいた。 彼の使い魔であった。 「ちょっとぉおおッ!なんであんたいるのよ!」 「モット伯とやらの家に向かうといったはずだ、脳みそがクソになったのか?」 ルイズは混乱する。 「あ、あんた異世界から来たんじゃなかったの?なんでモット伯の屋敷の場所がわかったのよ?」 ワムウは平然と答える。 「シエスタは『もうすぐ貴族の方の家に専属で勤める』『残り数日間はここで生活ができる』と言っていた。もうすぐと言っているんだから 行くのが5日以上はないだろうが、数日間という言い方からには少なくとも3日か4日はここに居るという印象を受ける。つまり馬車で1日ないし 数時間といったところだろう。こちらの馬の速度が俺の世界とほぼ同じだというのは数日前に俺の体で調べさせていたからな。まあ、俺の足で 1時間ちょっとしかかからない程近いとは思わなかったがな。方角はお前の部屋にある地図を見れば、王宮が北で南西はガリアという他国との国境、 東はゲルマニア国境だ。いくらなんでも勅使がこれ以上王宮から離れるということはあるまい。したがって北に向かって歩いていたら大きな屋敷に 『モット屋敷』などという悪趣味な看板があったんでな、小さな『赤石』を探すよりはわけがなかった」 ルイズは目が点になる。 「あんた、異世界から来た亜人だってのに地図の文字が読めるって言うの?」 「我々の能力をなめるな。文字や言葉など数時間ほどでほぼ完全に習得できる」 ルイズは呆然として、ため息をつく。 「あんたって、ほんと化け物ね……肉体面でも精神面でも…」 「ではその化け物から忠告だ。これから化け物じみたことをやるから貴様のような普通の人間は足手まといだ、帰ってくれ」 足手まといだと言われ、ルイズは激昂する。 「ヴァリエール家三女のメイジが普通の人間だっていうの!やっぱり私が魔法使えないからなの?爆発だけでも手助けくらいできるわよ!」 「違う。多少土人形やら火やら出せたところで同じだというのだ。俺は足手まといを抱えながら暗殺するほど器用ではない。 それに俺のプロテクターの定員は一人だ。ついて来られて侵入がバレては元も子もないし、バレずに済む方法は思いつかん。 それとも、お前がその方法を思いついたって言うのか?」 ルイズは唸る。 「じゃ、じゃあ私が正面で爆発を起こして陽動してる隙にあんたが裏口から入り込むとか…」 「論外だ。お前が勅使など殺したら死刑だと言ったんだ、誰かが殺したと思われては困る。それに、兵士の追撃をかわしきれるのか?」 ルイズは黙る。 「とにかくだ、帰って貰おうか。できれば物音を立てずにな」 ワムウは立ち上がり、姿を消した。 * * * ノックに主人は気づき、返事をする 「誰だね?」 一人の兵士が入る。 「衛兵のフウガです。あの、前門を23時まで見張るはずの同僚のライガが見当たらないのですが、行き先をご存知でしょうか?」 彼は後ろ手で自分の入ってきた扉を閉めた。 「知らんな、まあ十中八九脱走だろう。そんなやつはごまんといる、一々騒ぐんじゃない」 「しかし、彼とはこちらで数年一緒に勤めており、そんな奴じゃないはずな…うがッ!」 モット伯は目を見開いた。 こんなことは禁制の薬、厳罰の器具、裏世界の禁術を数多見てきたが、彼はこんな自体をあらわせる言葉を知らなかったッ! 先ほどまで、平然と自分と話をしていたはずの一人の兵士の背中から首が生え、胴体が体の外に表れ、腕を出し、足を出していった。 何より恐ろしいのはッ!その男が全ての体を見せてきたときには!その兵士は跡形もなくなっていたのだ! その男には、手首がなかった。 モット伯はガタガタと奮えながらもその男に話した。 「お、お前は何者だ!先ほどの兵士はどこにいったんだ!」 「食べさせてもらった。人間に潜行するなんて、4000年ぶりだろうか」 彼は舌なめずりでもするかのように、周りを眺めながら淡々と述べた。 モット伯は腰を抜かし、後ろに倒れる。 「Wake me up!だ、だれかッむぐッ!」 モット伯ののどに手首が食らいつき、彼は大声をあげることはできなかった。 「切り落とした手首を持ってきていてよかったな、まさか役に立つとはな」 彼はその大男を憎憎しげに見つめる。 モット伯は杖を振った。 「何者だか知らんがトライアングルを舐めるなッ!」 腐ってもトライアングル、腰を抜かした状態でも詠唱を密かに終えていた。 杖先から大男に向かって水柱がワムウに向かって飛んでいく。 しかし、大男は片手でそれを受け止める。水しぶきが天井、床に広がる。 「う、うわぁああああッ!」 モット伯はまだ杖を振る。今度は高熱の蒸気を杖からあの大男に向かって飛ばす。 直撃はした。はずだった。が、大男はものともしない。 「あまり音と時間はかけたくない。とっとと死んでもらおうか」 モット伯はガタガタと奮えている 「あ、あんたは何者なんだ!誰に命令されたんだ!」 とのどに手首が食らいついた状態で出せるだけの声を出す。そして倒れたまま後ずさる。 大男はニヤリと笑って 「お前の命を狙っているものはいくらでもいるだろう」 モット伯は哀願する。 「せ、せめて、冥土の土産にどこの者か教えてくれ」 「だめだな」 すると、モット伯の顔色が変わった。 「教えてくれないのならば、少々痛めつけてさせてもらおうか」 大男の天井から水滴が滴り落ちる。 「『アクア・ネックレス』!」 * * * 風のプロテクターを纏い、見張りの一人を単独のときに殺し(その人間はかけらも残さず食った)、交代に来た人間に潜行する。 数人経由しなければならないか、と思っていたが一人はそのまま主人の部屋に向かってくれた。ありがたい。 主人のモット伯とやらはメイジのようだが、大したことはない。 腰を抜かしたまま叫ぶ。 「あ、あんたは何者なんだ!誰に命令されたんだ!」 「お前の命を狙っているものはいくらでもいるだろう」 直接のかかわりがないだろうルイズですら嫌っていたのだから、殺意のある奴はいくらでもいるだろう。 そいつらと勘違いしてくれれば対処がしやすい。 「せ、せめて、冥土の土産にどこの者か教えてくれ」 奴は哀願してきた。戦士としてもクズであると明言できる。こんな奴には神風嵐を使うまでもない。もっとも片方手首がないため使えないが。 「だめだな」 すると、奴の顔が変わる。 「教えてくれないのならば、少々痛めつけてさせてもらおうか」 天井から水滴が滴り落ちてきた。 「『アクア・ネックレス』!」 落ちてきた水滴は軌道を変え、俺の口の中に飛び込んでくる。 普通の人間ならば、とっさにかわそうとする!しかしワムウは思いっきり拳を奮った! 水滴が吹っ飛ぶ。 しかし、彼はそのあたりをまだ漂っていた『蒸気』にまでは気を払っていなかった。 蒸気はまるで先ほどの水滴のように進路を変え、ワムウの喉へ侵入した。 「NWWWWWWWWW!!」 その蒸気は俺の喉を切り裂いた。 モット伯は叫んだ。 「ビンゴォッ!喉を引きちぎった!」 大男の体はよろめく。 「フハハハハ!口ほどにもない奴め!俺の『水魔法』と『アクア・ネックレス』!これほど相性がいいものがあるだろうかッ!」 モット伯の家柄がいくらよかったと言っても、人望も実力もなければ出世はできない。 彼の人望は皆無ではあった。つまり、実力は折り紙つきであった。表面を取り繕う演技力とその実力だけは認められ、勅使にまで出世したのだ。 彼の『右腕』である能力もその出世を手伝っていたが、どんな汚れ仕事をも果たす胆力と経験こそは彼の『左腕』であった。 が、彼の経験をもってしても、 「MWWW…」 喉をもがれて、 「WRY…」 それでもなお戦いを挑んでくるような生物を知らなかった! 「WRYYYYYYYYYYYY!!!!」 起き上がった勢いによる蹴りがモット伯にヒットし、彼は壁に吹っ飛ぶ。 クリーンヒットとはいえ、苦し紛れの攻撃には違いないため、致命傷にはならない。 が、威力がないゆえにあまり音が立たなかったのは幸運であった。 呻き声をあげて吹っ飛んだモット伯は、着地地点で自分の状況を考える。 (ど、どういうことだ!?奴の喉は確かに切り裂いた…もぎとったはず!実際ここからでもそれが見える!なのに!なのにッ!なぜ奴は 生きているんだ!?俺に蹴りを食らわしてくるんだ?) ワムウは予想外の攻撃に少し立ち止まって考える。 (ふむ…魔法にはこういうものもあるのか、勉強になったがいかんせんパワーが足らなかったようだな) 「うおおおおおッ!『アクア・ネックレス』ッ!!」 ワムウがモット伯に向かって歩き出すと、彼の近くを漂っていた先ほどの蒸気が、実体化し彼の喉に突っ込んでくる。 が、その水蒸気はワムウには届かなかった。 ワムウの姿はゆがんで見えた。 「この『風のプロテクター』は…もっともこの名付け親は俺ではないがな……まあそんなことはどうでもよかろう…… 『風のプロテクター』は俺の肺からの水蒸気を俺の風で操って纏っている…水蒸気が水蒸気と風の壁をつっきることはできまい…」 モット伯はアクア・ネックレスを執拗に忍び込ませようとする。しかし、カッター型にしなければシャボン玉すら通さなかったであろう 風のプロテクターは、水蒸気などを弾くことはわけがなかった。 「ひ、ひぃいいいい!」 モット伯は後ろに後ずさるがもう窓しかない。 ここは屋敷の4階、生身の人間が落ちたら怪我は免れないだろう。 そして、怪我した状態でこの化け物から逃れることは不可能であると悟っていた。 そのために… 「『アクア・ネックレス』!」 彼はそれを自分の付近まで呼び寄せ、窓を開け、それをクッションのようにして飛び降りた。 そして、着地。 「なるほど、そういった使い方もできるのか」 ワムウは窓のさんに立ち、躊躇なく飛び降りる。こちらも問題なく着地。 「さあ、そろそろ諦めるんだな。なかなか楽しかったが、そろそろ終わらせないと困る」 「ふは…ふはははははは!」 モット伯は大きく笑い出した。 「お、俺も幸運に恵まれたようだぜェーーッ!」 モット伯の視線の先にいるのは、ルイズだった。 * * * 「な、なにがおこってるのよ!」 「その水滴を口に入れるなッ!」 モット伯はアクア・ネックレスをルイズの方向に向ける。 いくらワムウが柱の男だからと言って、あの距離ではアクア・ネックレスを止めるのは不可能であった。 「ふひゃはひゃッ!無駄だッ!口以外にも入れるところなんてどこにだってあるぜェーッ!こんな時間に通りすがりの娘がいるわけがない、 そう思っていたがやはり貴様の関係者かッ!お前らは将棋やチェスでいう『詰み』に嵌ったのだーッ!」 モット伯は未だに手首で半分締められている喉を使い叫ぶ。 「よくわかんないけど、こいつから離れればいいのね!ワムウはそいつをやっちゃいなさい!」 ルイズは杖を抜く。 ワムウは一瞥したあと、モット伯に向き直る。 「ただの魔法でどうしようっていうんだ!俺のはただの魔法じゃないんだぜェーッ!」 モット伯は狂ったように叫びつづける。 ルイズは地面に杖を振った。 地面は軽い爆発を起こし、ルイズは後方に吹っ飛ぶ。 「距離は稼いだわよ。これでいいの?」 「ああ、十分だ」 ルイズには、なぜか、ワムウの考えがわかっていた。 「なにが十分だって?その程度の距離でェーーッ!お前だって俺に届く距離じゃ…」 モット伯の心臓が血を吹いた。 「単発式『渾楔颯』」 『烈風のメス』は軽々とモット伯の心臓を貫き、アクア・ネックレスはルイズの手前で墜落した。 ワムウは倒れているモット伯に近づく。 「ふむ…まだ息があるか……」 モット伯は持ち前の水魔法を使って治していたが、それでも意識を保つのが限界、死ぬのは時間の問題であった。 「とどめをささねばならない…だがただ食ってしまうのも惜しい…」 ワムウはつぶやく。 「この俺に単発とはいえ『渾楔颯』まで使わせた貴様には敬意をもってとどめをさしてやろう…手首がないから亜流になるがな…」 左足を関節ごと右回転… 右足を膝の関節ごと左回転… そのふたつの足の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は! まさに歯車的砂嵐の小宇宙!! 「闘技『神砂嵐』!!」 * * * 「…いくら無茶だからって、足手まといっていわれたのに残ってそれで人質になった、なんてことになるくらいなら死んだ方がマシよ」 「あいつの注意がお前に行ったから助かったといえば助かった。まあ、礼くらいは言ってやろう。」 ワムウは馬の横を同じスピードで走りながら話していた。 「…怒らないの?」 「無茶をやったが、結果的に良かった以上は俺からはなにも言えん。だが、あんな上手くいくことは滅多にない。十回に九回は死んでいても おかしくない。あんな無茶をやりつづけるつもりなら、もう少し精進するんだな」 ルイズは下を向いて少し黙ったのち、話題を変える。 「ねえワムウ、なんでモット伯なんかに敬意を払う、なんて言ったのよ。戦いの上でも人質をとったり、能力を隠して奇襲したり、 あんたの言う『戦士』とはほど遠いような戦い方をしてたように思えるんだけど?」 ワムウは振り返りもせず答える。だが、その話には重みがあった。 「戦士とは戦いを侮辱しないもの、と考えている。今回の戦いにはルールなどなかった以上、卑怯呼ばわりする必要はあるまい。 むしろこちらから押しかけていって殺したんだ、どちらかといえば非はこちらにあるな」 「……あんた、わかってるならなんでこんな無茶やるのよ、まったく」 ふー、とルイズはため息をつく。 ルイズが生きてきた中でこんな生死の間をさ迷ったのは初めてだったゆえに、精神的に大分疲れているようだ。 「だが、戦いを侮辱しなかったといったことだけではなく、奴は単純に強かった。この俺にここまでダメージを与えられる奴は今までにもそうは居なかった。 波紋使いでもないのにここまでやられたのは長いこと生きてきたが始めてかもしれんな。その強さに『敬意』を払った。それだけだ」 ルイズは息をすいこむ。 「あんたのいう、『敬意』とかよくわからないけれど……あんたにとって『戦士』は全てだってのは本当のようね…… ゲスだから殺そうと思った相手に敬意を払うとかわけわかんないわよ、まったく」 そして、振り返る。 「そうそうワムウ!寮に戻ったらあの姿を消した『ぷろてくたー』とかについてちゃんと説明するのよ!」 X月Y日付 ゲルマニア新聞――モット伯行方不明事件 屋敷の敷地には小さな穴が空いており、争った形跡があったため、モット伯自身の失踪は考えにくく、殺人、あるいは誘拐と当局は考えていたが モット伯自身の魔法と思われる水魔法以外の魔法が使われた形跡がなく、メイジ殺しの犯行と考えられて捜査を進めていたが、 凶器と行方不明になったモット伯及び2名の死体すら見つからず、当局は昨日、捜査の打ち切りを決めたと発表した。 新しい勅使に就任したアンドリュー・リッジリー氏の会見では…… To Be Continued...